アマチュア木工の集塵シミュレーション
正直言って、集塵に取り組み始めた時点では、理屈もへったくりもあったものではなく、とにかく事例などを参考に闇雲に作り始めたのですが、色々問題 に突き当たるたびに迷い悩み、ここにきてやっと道筋が見えるようになってきました。ただし内容はアマチュアにとって必要な程度で、プロの方から見れば何やってんだ思われるでしょうが、とにかくまとめてみま した。集塵の悩み、迷いに少しでもお役に立てば幸いです。またご指摘などありましたらよろしくお願いします。
なお、作成に当り、資料引用のご許可いただいた昭和電機(株)殿に心よりお礼申し上げます。なお各計算結果は私の個人的な試算であり、同社には関わりがないことをお断りしておきます。
一部、または全部の無断転載・引用、および純粋に個人的な使用以外の利用をお断りします。
1.集塵に用いる単位と換算
2.ブロアの種類と特徴
3まずは木工機械ありき!
4.ダクト・配管
5.ブロアの特性曲線
6.吸込仕事率とは?
7.集塵シミュレーション
8.まとめ
9.参考資料
市販集塵機の特性測定(Kkappaさん、KEN_BOHさん編)
市販集塵機システムの測定(ピノキオさん編)
ホームクリーナーの特性測定
電源周波数違いによるブロアの能力測定例
自作サイクロンの測定/ピトー管の作り方
丸パイプ、角パイプ
集塵と静電気
聞きかじり・サイクロン・ノート
自作サイクロンの検証
フードを見くびらないで!
圧力損失計算表
ブロアの実際の動作点
サイクロン集塵機の製作例
集塵用測定器貸し出し
サイクロンの圧力損失計算式
ちょっと言いにくい点でもあるのですが、サイクロンに限らず集塵で苦労されるのは、主としてブロアの能力に起因するものが多いようです。
あるブロアで設計されたシステムをそのまま製作しても、もし実際に使用するブロアの能力、風量や風圧が半分であればサイクロン内部の風速も大きく減少し、ダストの分離能力も大幅に低下してしまいます。極端なサイズやアレンジで製作しない限り、ブロアの能力で殆んど結果は決まってしまうと言ってもいいくらいです・・・と思っています。
あちらでは1HP以下のブロアを使用した市販品は見かけないようですし、中には3〜5HP等という強力なブロアを使用しています。しかし国内でブロアの価格を見ると、単相100Vのブロアは1HP程度までしかなく、また2HP以上ともなると三相になり、実売価格も6万以上で、それなら市販の強力な集塵機が買えてしまいます。
ただっぴろい工房で使用するのでもなければ、家庭用掃除機、ジャンクのブロアなどで自分サイズのサイクロン製作の試行錯誤は興味深いと思いますし、前段セパレーターが目的でも、実用性は十分あるのではないでしょうか。>
<最近のトピックス>
○ブロアのタンデム運転
○あのBillさんのサイトから 透明サイクロン 登場! http://www.clearvuecyclones.com/index.html
○また強力ブロア自作のためのインペラも入手できるようになっています。 http://www.sheldonsengineering.com/html/BillPUS.html
○P-TOOLSでJETの集塵機、ウッド・レースなどを扱い始めたようです。 http://www.p-tools.com/jet/jet_top.htm
○サイクロン一家 続々!? というのは冗談ですが、皆さん、アイデア満載、仕上げも能力も抜群なサイクロン集塵機を製作されています。
Studio Streamさん kkappaさん KWCさん kazu@あきたさん O・K Craftさん KEN_BOHさん
和樽さん チャッピーさん WAKUさん まなさん チルチンさん
○ブロアの能力?
先日送られてきたFine Woodworkingに1.5HP(公称千数百CFM)の集塵機を使用したダクティングの例がありました。これによれば、このクラスの集塵機は、集塵能力を低下させないために集塵機のインレットから最も離れた工具の集塵ポート間全トータルで、4インチパイプ5m、同径のフレキシ1.5m以内を薦めているようです。(ただし、1Kpa以上の圧力損失が予想されるサイクロン無しでの話です)
5インチダクトシステムでは900CFMある集塵機でも4インチダクトシステムでは450CFM程度で頭打ちになるとBillさんの指摘もあります。現在100ミリダクト、0.5HPブロアにサイクロンを繋いでいますが、圧力損失とブロアの特性曲線から推定すると1HPのブロアに交換しても風量は20%程度しか増加しない(約250-->300CFM)という予想で、本気にやるのなら14インチ(350ミリ径)のインペラに2HP以上のモーターぐらい、あるいは高圧型のターボブロアにしないと改善されないのではとなかなか手がつけられません。本格的集塵システムを考えられている方は配管、集塵機(ブロア)の十分な検討をお奨めします。
.いきなり単位が出てきて敬遠されそうですが、集塵システムの能力を考える場合、木工機械の種類と数、工房の広さ、配管などそれぞればらばらですので「よく吸う」「吸わない」だけでは比較も出来ませんし、プランもあてずっぽうになってしまいます。アマチュアレベルではそれほど多くは必要ないのがまんしてお付き合いください。外国製の集塵機も多くあり、国内の集塵機との性能比較に必要なので、そちらで使用される単位についても説明します。
これはどなたでもご存知ですね。空気が1秒間に何メートル動くかで表し、単位は(m/s)です。以下”U”で風速を表します。
アメリカではFPM(Feet per Minute フィート/毎分)がよく使われます。1m/sの風速は、1m=3.3フィートとして
1m/s≒1×3.3×60秒=198(FPM) 逆に 1FPM≒0.005m/s
フィ-トに換算
逆に4000FPMは、1フィート=0.3mとして
風速U≒(4000×0.3)/60
mに換算 毎秒に換算
≒20(m/s)
一定時間にどれだけの体積の空気が移動するかを表す単位です。集塵には様々な直径のダクト、パイプやホースはものが使用されますが、中の風速が同じでも断面積Sが大きい物ほど風量は大きくなります。単位はいろいろありますが、ここでは1分間に何立方メートルの空気が移動するかを表す(m3/min)を使用します。
よく使われる直径Dが100φのパイプで中の風速が5m/sだったとするとそのときの風量Uは
半径r=D/2=100mm/2=50mm --> 0.05m
風量Q=風速(m/s)×半径(m)×半径(m)×π×60(秒)
断面積
= 5×0.05×0.05×3.14×60
= 5×0.47
= 2.36(m3/min)
アメリカでは長さの単位はインチ、フィートで、この風量にはCFM(Cubic Feet per Minute 立方フィート/分)が使われます。、外国製の集塵機のカタログにはこれが表示されています。1m≒3.3フィートとすると上の風量は
風量Q≒5×3.3×0.05×3.3×0.05×3.3×π×60
それぞれフィートに換算
≒5(m/s)×16.9
≒2.36(m3/min)×35.9
≒84.6(CFM)
逆に400CFMは、1フィート≒0.3mとして
風量Q≒400×0.3×0.3×0.3
m3に換算
≒400×0.027
≒10.8(m3/min)
残るは後1つです。地球上で大気の底に住んでいるので意識しなくても大気の圧力を受けています。天気予報などで「1015ヘクトパスカルの高気圧が・・・」などと情報を言っていますが、現在このパスカル(Pa)が圧力の単位として使われています。ヘクト(h)は100倍ですから 1ヘクトパスカル 1hPa=100Pa、キロ(K)は1000倍ですから 1キロパスカル 1kPa=1000Paです。
もう1つ集塵で知っておいたほうが良い圧力単位があります。マノメーターといってU字型の管に水、オイル、水銀などの液体をいれて圧力を測定するものです。U字型ですから管の口は2つあり、両者にかかる圧力が同じ場合は液面は並びますが、一方の圧力が高いとその側の液面は押し下げられ、逆に低いと液面が上昇します。この液面の高さの差で圧力を表し、水1ミリの差の圧力を1mm水柱(1mmAq)と表します。
パスカルとの換算はおおよそ
1Pa≒0.1mmAq 逆に 1mmAq≒10Pa
アメリカではインチで表しWC:Water Column in inches あるいはWG:Water Guageで表示され、水柱を1インチ押し上げる圧力です。
1mm水柱との換算は、1インチ≒25.4mmとして
1mmAq≒1/25.4=0.04WC 逆に 1WC≒25..4mmAq
WCとパスカルとの換算は
1Pa≒0.004WC 逆に 1WC≒254Pa
大気圧の1気圧は1013hPaです。一般的に風船、タイヤなどの中はこれより大きい圧力で膨らんでいますので、正圧と呼ばれます。逆に掃除機、集塵機などでは大気圧より小さくなっているので負圧といいます。圧力の大きい方から小さい方へ流れますから、集塵機はこの負圧でダストを吸い込むわけです。
これは絶対的な比較ですが、たとえば2KPaと3KPaの圧力の関係では、相対的に大きい方を高圧側、小さい方を低圧側とする場合もあります。
似た名称が出で来て紛らわしいのですが、この静圧(SP Static Pressure)は空気が静止状態の圧力、あるいはダクト等の側壁が受ける圧力です。ブロアのインレット(吸い込み口)をふさいでしまった時の内部の圧力を最大静圧(MaxSP)といいます。集塵の場合吸い込みなので負圧です。
難しい理屈と計算式があるのですが抜きにして、総圧、動圧、静圧とは何か図でつかんでください。
ピトー管と差圧計で、動圧を測定し計算すると風速を求める事が出来ます。
単位の話ばかりでは面白くないので、ぐっと具体的にブロアに話題を変えます。扇風機、窓用換気扇等に使われているのはプロペラ・ファンですが、効率が悪くまた風圧が低いので集塵用には向きません。
集塵にはインペラがケースに入れられて、軸方向から空気を吸い込み(インレット)、インペラが押しのけた空気を横方向に排出(アウトレット)するタイプが使われます。インペラ(羽根車)の形状によって風量が多いもの、圧力が高いもの、静かなものなどがあり、使用目的に応じて選択されます。
昭和電機(株) 技術資料より
一方集塵機には大別して2タイプあります。木工機械メーカー製に多いダストバッグがついたタイプ(図のAグループ)は、ダストを含んだままブロアに吸引するタイプで、ダストがブロアのインペラに高速でぶつかりますので丈夫な羽根を持つプレート型が使われます。シロッコ型、エアホイル型ではインペラの羽根がいたみますし、ターボ型ではインペラとケースの隙間が小さく、いずれもダストがぶつかったり付着したり、インペラのバランスが狂ったりするおそれがあり、不向きです。
もう一方のタイプ(図のBグループ)はサイクロン集塵機、家庭掃除機などで、吸引した空気がブロアに入る前にサイクロン、ダストバッグなどでダストを分離するもので、インペラにダストがぶつかる心配が無いので全てのファン型が使用可能です。
集塵システムを考える時、まず第一に使用する木工機械の集塵に必要な風量を知る事が出発点です。
アマチュア木工家のが使用するであろう木工機械で最もダストの量が多いのは自動カンナ、手押しカンナ、テーブルソー、ルーター等でしょう。しかし残念ながら殆どのメーカーでは集塵に必要な風量は公表されていません。マキタに問い合わせたところ
もともと付属、あるいはオプションの集塵ポートを使用した場合で、いずれも同社製の集塵機とセットでの使用が考えられているようです。 75φ系 ・・・ 集塵機410との組み合わせ 自動カンナ 2012NB 8.0m3/min程度 38φ系 ・・・ 集塵機435との組み合わせ スライド丸鋸 LS0813FL 3.0m3/min程度 28φ系 ・・・ 集塵機420Sとの組み合わせ ベルトサンダー 9903 1.0m3/min程度 オービタルサンダー 9046 〃 (註)本体内に吸塵用のフアンが内臓されていますので、特に外部吸塵装置は不用と考えます。 |
必要風量が小さく細いホースを使用する手持ちの電動工具は別として、集塵する工具のなかでもっとも大きな風量が必要な機械の集塵に必要な風量が集塵機に要求される風量です。
マキタの例からは、自動カンナには8.0m3/min(約300CFM)以上の風量が必要となりますが、集塵ポートの形状を変えるとこの数値も変わってきますのである程度の試行錯誤は必要になるかもしれません。
またブロア単体での能力がこれでいいという事ではありません。この後説明しますが、ブロアにダクト、フィルター等を接続すると必ず圧力損失が生じ、この損失+速度圧以上の静圧を持つブロアでないと風量が低下してしまいます。ただしそれだからといって、全く使い物にならないという訳でもないのですが、ダクトの途中で詰まったり、ダクトの垂直部分をダストが登っていかなかったり様々な支障が起きる可能性があるので、出来れば余裕のある風量で考えた方が間違いないと思います。
サイクロン集塵システムで、数ミクロン以下の人体に非常に有害な細かいダストまで分離するためには400CFM以上が目標値になっているようです。
Deltaに580、560、160、281、441等の必要集塵風量を問い合わせたところ、下のような回答でした。
Thank you for visiting the Delta Machinery website. We do not have individual
readings for each tool, but I can give you some readings by the American
Conference of Governmental Industrial Hygienists. Planers 13"-20" 685 CFM Jointers 440 CFM Table Saws 350 CFM Band Saws 300 CFM Regards, Delta Machinery |
他にサイクロン集塵機を製造・販売しているONEIDA社の資料の中にありました。資料中のGeneral CFM Requirrement'sです。その中からアマチュア木工に関係ありそうなものを抜粋しました。
木工機械の種類 | 必要風量(CFM) | メインからの分岐の径、および フード・ポートの径(インチ) |
ブレナー(自動かんな) 10-15" | 500-600 | 5 |
レース(大型) | 650 | 5 |
レース(小型) | 450-650 | 4 |
テーブルソー 10-16” | 400-600 | 5 |
ボール盤 | 300-450 | 4 |
バンドソー 12-16” | 300-450 | 4 |
手持ちサンダー | 300-450 | 4 |
ジョインター(手押しカンナ)6-8” | 300-450 | 4 または 5 |
スクロールソー(糸鋸) | 300-450 | 4 |
シェーパー(ルーター?)1 1/2-3HP | 450-550 | 5 |
シェーパー(トリマー?) | 300-450 | 4 |
ドラムサンダー(シングル)12-24” | 500-600 | 5 |
(注)には
あらかじめ径の小さい集塵ポートがついている機械では、直近まで推奨径で配管し、リデューサーで変換するのが好ましい。
これを見ると思わず、うわーっとため息が出てしまいます。敷居が高いです(笑)。ここまでやっておけば、非常に細かいダストの集塵を含めてどこに出しても心配のない集塵環境になるんでしょうが・・・ 現実的にいろいろ妥協せざるを得ないとしても最低300CFM=8.36m3/minはたたき出したい!ですね。
空気が管の中を流れると管壁との摩擦が生じ、これが抵抗になります。管の内面や継ぎ目に凹凸があるとそこで小さな渦が発生して抵抗になります。管を曲げても、径を変換しても、集塵ポートを接続しても、フィルターやサイクロン等を接続しても空気抵抗があります。困った事に、何かすればことごとくこの空気抵抗が発生し、そのために圧力損失が生じてしまうのです。
それではいよいよ集塵の核心に迫っていきます。昭和電機(株)の資料より、圧力損失の計算式を示します。
|
この2つの式より、速度圧は風速の二乗に比例しますので、圧力損失も風速の二乗に比例します。また下の式から、直線ダクトでは圧力損失はダクトの長さに比例し、ダクトの直径に反比例します。ダクトは太く短いほど圧力損失が少ないのです。またこの式の係数0.02は内壁が滑らかで摩擦が少ない場合です。フレキシブル・ホースなどではもっと圧力損失が大きくなります。
ブロアに100φの理想ダクト5mを接続した場合の圧力損失を試算してみます。風量Qを300CFM=8.1m3/minとして
まずこの際の風速U(m/s)は
風速U=風量Q÷(断面積×60)=8.1÷(0.05×0.05×3.14×60)=8.1÷0.47=17.2(m/s)
速度圧 Pv=(17.2÷4.04)2×9.81=178Pa
この際の5m長ダクトの圧力損失PLは L=5m D=0.1mで
PL=0.02×(5÷0.1)×178=178Pa
実際にはこれに何もしていない切りっぱなしのダクト先端の損失 約166Pa(Pv×0.93)と、吐出口の損失 178Pa(Pv×1)が加わって総圧力損失としては
Ptotal= 178+166+178=522(Pa)≒0.52(KPa)
となります。
圧力損失の分布を図に書いてみると
ブロアの入口/出口が逆ですが我慢してください。
また、パイプ中にその速度で空気を吸い込むための圧力=速度圧が加わり
必要静圧=総圧力損失+速度圧=522+178=700Pa
となり
所定の風量をダクトに流すためには、この必要静圧以上の静圧をブロアが持っていなくてはいけないということです。
静圧、圧力損失はマイナスですが、分かりやすいようマイナス符号は取ってしまっています。
これにエルボや分岐やらなんやらかんやら接続され、どんどん圧力損失が加算されていくわけですから空恐ろしくなりませんか?(笑)???
この場合、切りっぱなしはパイプ約5mに相当する圧力損失があります。意外と見過ごしがちな、先端開口の処理の大切さもお分かりと思います。
次は各配管パーツです。
昭和電機(株)の資料ではコンポーネントの圧力損失は
Pc=Pv×ζ Pa (ζ:ギリシャ文字のぜータ、圧損係数) で計算します。 |
圧損係数ζ=0.93
前に計算したように、 速度圧 Pv=178Paであれば
圧力損失=178×0.93=166(Pa)
圧損係数ζ=0.49
フードの圧損係数ζ
角型の場合は大きい角度
角型ブース直結の場合
圧損係数 ζ=0.50
テーパー付ブースの圧損係数ζ
以上のように、フード付にするだけで随分変わってきますし、最適角度があるようです。
続いてダクト/パイプの曲げの損失係数です。
リデューサーの場合はちょっと面倒です。条件はテーパー部分の長さがパイプの径の差の5倍以上、たとえば100φから50φに変換する場合は(100-50)×5=250mm以上になります。
また圧損は入り口と出口の速度圧の差に圧損係数を掛けたものになります。
Pr=(Pv2-Pv1)×ζ です。
同じ径の分岐
90度のいわゆるT分岐では分岐側だけではなく、ストレート側も影響を受けるようです。
圧力損失は参考値です。
実際はサイズなど設計次第で数倍以上の
圧力損失が生じる可能性があります。
忘れてしまいそうですが、吐出口にも圧力損失があります。
ブロアのアウトレットにフィルターを接続した場合は、
吐出口数はゼロとして、その代わりにフィルターの
圧力損失を加算します。
ダスト・フィルターの圧力損失は
・普通(30ミクロン)程度 ・・・ 630Pa
・5ミクロン以下 ・・・ 250Pa
の参考値があります。しかしこの圧力損失も
風速に依存します。
以上の資料より1つの木工機械に対して必要なブロアの静圧は
必要静圧 = ダクト/ホースの圧力損失
+ (フードの損失係数+エルボの損失係数+リデューサーの損失係数)×速度圧Pv
+ サイクロンなどの損失
+ 出口フィルターの損失、または吐出口の損失係数×速度圧
+ 速度圧
の総和となります。途中でダクトの径を変換した場合はその部分の損失を加算、また実際にはパイプの継手、ブラストゲート、空気漏れなどの若干の損失の増加があると思います。
送風機の専門メーカーからはブロアの特性曲線(性能曲線)が発表されています。
下図例は昭和電機(株)製のブロアの性能曲線図で、左がプレート型、右がシロッコ型、これはブロア単体で、風量を変化させた際の静圧の変化をグラフにしたものです。騒音特性も一緒に記載されています。
この例からはプレート型では風量が増加すると静圧が暫減しますが、シロッコ型ではある程度の風量があるところで静圧の極大点があるようです。図で赤点が最大静圧、青点が最大風量を表しています(60Hzの場合)。
どんな使用状態でも無条件でカタログの最大静圧、最大風量が得られるわけではないのです。
左のプレート型で、必要な風量が8m3/minとして、横軸の8m3/minから上に60Hzの性能曲線との交点でのブロアの静圧は約1.4KPaとなり(緑の線)、
8m3/minという必要風量を得るためには、ダクト等の総合圧力損失がその風量での静圧1.4KPa以下にする必要があることが分かります。
逆にいえば、このブロアを総合圧力損失が1.4KPaのダクトシステムに接続した際に得られる風量は8m3/minです。総合圧力損失が1.6KPaに増加すると約4m3/min(オレンジ色の線)と風量は次第に低下していきます。
それでは総合圧力損失がブロアの最大静圧を超えてしまった場合は?
風量が全くゼロになってしまうわけではなく、風量が低下し、(圧力損失は風速の二乗に比例するので)したがって圧力損失も低下し平衡したところに落ち着きます。
私のサイクロン集塵機はこの状態だと思われます。動作状態の求め方は資料 ブロアの実際の動作点に実例を挙げました。
<手順> @使用する木工機械から必要な風量を決定 Aダクトのレイアウト、使用パーツから総合圧力損失を計算 B実際にその風量、静圧が得られるブロアを選択する というのが本来の集塵システムの考え方です。 |
(註)アマチュア用の集塵機では、最大静圧、最大風量はカタログなどに記載されていますが特性曲線は? デルタのHPのQ&Aに次のようなものがありました。
Single Stage Dust Collectors
Problem: (Caller requesting) Request for "Fan curves" or "Performance curves".
Solution: This data is not available. The single stage collectors are designed for use with individual machines.
The number of machines depends on the number of inlet openings.
Problem: Can these dust collectors be used in installed shop systems?
Solution: This data is not available. The single stage collectors are designed for use with individual machines. The number of machines depends on the number of inlet openings. Also,
each machine should be no further away than two lengths of standard hose.
要約すると特性曲線は公開しない。シングル・ステージの集塵機は1つの木工機械に接続して使用するものである。また付属しているホースの2倍の長さ以内での使用を推奨する・・・
もっとパワーの大きい50シリーズ以上では発表されているので、配管システムは想定外使用ということでしょうか?
また最大静圧、最大風量がどのような状態で測定されたものかも不明です。一方JETのカタログでは、650CFM@4"のように実際に4"のホースを接続した際の風量が記載されていますので、多少は救われますが、実際に配管して集塵システムを組む場合にはデータが不足してしまいます。
BillさんのHPに様々な馬力のブロアの特性曲線例が記載されていますが、ここから類推するしか方法が他に見当たりません。ただし60Hzでのデータですので、50Hzでの使用は割り引いて考えた方がいいようです。
左の特性曲線図はアメリカのサイクロン集塵機
メーカーWOOSUCKER社のHPにあったものです。
ONEIDA社の製品との性能比較ですが、需要が
多ければこういう情報もしっかりと公開されるよう
ですね。
横軸の1WCは約0.25KPaですが、風量を見ると
かなりパワーが大きい事が分かります。
ブロアも1.5HP、2HPが使われています。
(註)その後の検索で Penn State Industriesで発売している集塵機には特性曲線が発表されているのを見つけました。 http://www.pennstateind.com/Merchant2/merchant.mv?Screen=DUST&Store_Code=PSI#Anchor-Fan-49575 これからある程度類推できそうですね。 またここでは1.5HP〜のブロアを単体で発売しています。重量が郵便の船便の限度を超えてしまうので国際宅急便になり送料が痛いですが、それでも多分国内メーカーの半額程度で手に入りそうです。サイクロンの製作自体それほど経費がかかりませんが、ブロアの入手がネックです。本格的サイクロンシステムを考えている方には検討の価値がありそうです。 |
ここらでちょと一休み! 家庭用クリーナーには(吸込)仕事率が表示されています。この吸込仕事率は家庭用のクリーナーの能力の比較がしやすいよう、JISで決められた検査で測定した真空度と風量から下の式 吸込仕事率(W)= 真空度(Pa)×風量(m3/min)×0.01666 (1W=0.102Kgf・m/s) で計算される値です。特徴的なのは実際に動作中の真空度(負圧)が最大の場合の値がとられます。 たとえば仮にあるクリーナーで風量を変えて測定し 風量 3m3/min 真空度 3000Pa 仕事率 150W 2m3/min 真空度 10000Pa 仕事率 333W 1m3/min 真空度 24000Pa 仕事率 400W 0.5m3/min 真空度 26000Pa 仕事率 225W となったとすると、こうして求めた一番大きい数値400Wを仕事率と称しているようです。 次の項で触れますが、この測定はホースを接続、先端はアダプター無しという実際の使用状態で測定する事になっているようです。という事は、集塵機として利用する時はホースから先の事だけ考えればいいわけです。ホース径を32ミリとすると、風速Vは V=1÷(0.016×0.016×3.14×60)=20.7m/s いっぺんに大容量のダストが出る木工機械には無理としても、これなら数m3/min程度の風量用途で、サイクロンやホースの圧力損失にもビクともしないし、風速からもそこそこのダスト・セパレーションが出来るなと理屈からも納得したのでありました。 |
いろいろなデータ集めが素人の私にはかなり負荷が重く、いささか息切れ気味です。類推せざるを得ないものが何箇所かあり、またまだ100%自信は無いので、あくまでもアマチュア的なシミュレーションということでご覧いただきたいと思います。ただし数倍というような大きな誤差は無いと思います。
ダクトの損失計算の係数ですが、0.02という値は新品のトタンや鋼管製の場合で、PVCパイプは大体同等と考えても大きくは外れないと思います。一方フレキシブル・ホースはもう千差万別のうえ、数値も一般的には公開されていないので決めようが無いのですが、資料より
・内部の凹凸が少ないものの直線状態 係数= 0.04 カーブさせると 係数=0.08
で計算するようにしました。したがって実際の使用する製品によっては誤差が大きく(損失が大きくなる)場合があることをお断りしておきます。また空調用のアルミ伸縮ダクトは直線で0.08?とさらに大きいのではないかと思います。
<ケースワーク>
工房の図面に木工機械を配置し、必要な配管を決め、必要風量の大きい機械は一番集塵機に近いところに配置します。一例として下図のような配管を例にして計算してみます。
シミュレーションの条件は
・ダクトは100φで損失係数=0.02
・エルボの曲げ曲率は直径の2倍
・フレキシブルホースの圧力損失の係数は0.04
・集塵機のインレットの接続はすぐ曲げない方が良いので0.3mの直管を入れています。
市販の集塵機を使用する場合で、ダストフィルター/吐出口の圧力損失は集塵機の特性曲線に含まれているものとします。
全ての機器の必要風量を8.1m3/min=300CFMとすると、速度圧 Pv=178Pa(4項の計算より)です。圧力損失が一番大きいのはもっとも離れているバンドソーで
@直管の長さLは集塵機側から
L=0.3+2.0+1.0+1.5+1.5+2.5=8.8m
圧力損失P1=0.02×(8.8÷0.1)×178=313Pa
Aフレキシブルホースの損失P2は直線では0.04ですがカーブさせているので
圧力損失P2=0.08×(0.5÷0.1)×178=71Pa
B4項の損失係数より、エルボ ζ=0.27 が2つ、T分岐 ζ=1.00 が1つ、フードは角型ブースとして ζ=0.50とします。
これらの圧力損失の小計は
P3=(0.27×2 + 1.00×1 + 0.50 + 1.00) × 178 = 363Pa
この場合の総圧力損失は
Ptotal=P1+P2+P3=313+71+363=747Pa
これに 速度圧178Paを加えたものがブロア/集塵機のインレットでの必要静圧になります。
必要静圧=総圧力損失Ptotal + 速度圧Pv = 747+178 = 925Pa
となり、集塵機は8.1m3/min=300CFMの風量でこの925Pa以上の静圧が得られるもの、ということになります。実際には継ぎ目、継ぎ手、ブラストゲート等の損失がありますので数割多めに見積もった方がいいのではないかと思います。
集塵機ではなく、単体ブロアを使用し、アウトレットにダスト・フィルターを装着するとすれば、エルボが1つ増えて計3箇所ですので
P3’=(0.27×3 + 1.00×1 )×178=411Pa
そしてフィルターの損失630Pa(推定値)が加わり、この場合の総圧力損失は
Ptotal=P1+P2+P3’+630=1590Pa
静圧=Ptotal+Pv=1590+178=1768Pa
となり、5項の性能曲線のプレートファンの静圧は8.1m3/min=300CFMで1.4KPa=1400Paですので、実際の風量は予定風量より少なくなってしまいます。
実際にどれほど少なくなるかは算出方法が複雑なので省略しますが、興味のある方は参考資料をご覧下さい。
もしおなじ配管で必要風量が10.8m3/min=400CFMとすると風速は23m、Pvは318Pa、したがって
圧力損失P1=0.02×(8.8÷0.1)×318=560Pa
圧力損失P2=0.08×(0.5÷0.1)×318=127Pa
P3=(0.27×3 + 1.00×1 + 0.50) × 318 = 735Pa
Ptotal=P1+P2+P3+630=566+127+735+630=2052Pa
静圧=2052+318=2370Pa
と一気に増え、静圧/風量が大きい一クラス以上上のブロアが必要になります。
コンポーネントのどれか取り外してしまうわけには行きませんから、一つ一つの圧力損失を少しでも減らす努力も大事です。
コンポーネントの角度などをドロップ・ボックスから選択、数量を入力すれば自動計算します。計算手順の違いで、上の計算とは若干の違いがあります。
圧力損失計算表
パソコンにエクセルがインストールされていれば自動的に別ウインドウが開きます。
以上でアマチュア木工の集塵シミュレーションを終わりますが、何を根拠に集塵機/ブロアを選択するか、参考になったでしょうか?
これまでいかにデータが少なかったかですし、残念ながら、製造メーカー側に特性曲線などのデータを公開する気が無ければ、確度の高い設計は難しい状態です。大変大雑把ですが、集塵機、ブロアの能力、ホース径により以下のような使い分けが考えられると思います。
手持ちバキュームブロア/小型ホームクリーナー | サンダーなど粉塵の集塵 |
ホームクリーナー、バキュームクリーナー | ホースを直接接続して卓上丸鋸程度までの集塵 |
0.5HP未満 | 〃 |
0.5〜1HP | 100φ5m程度のホースを木工機械に直接接続した集塵 |
1.5HP以上 | 複数の木工機械と配管の集塵設備 |
3〜5HP以上 | 大型フード、集塵ブース等を設けた本格的集塵装置 |
3HP未満はあくまでも目に見えるダストがパイプ/ホース途中で詰まったりしないという目安での集塵能力であって、木工機械があたり一面に撒き散らす粉塵については考慮されていませんし、能力的にも難しいと思います。
参考図書を読むと、すっぽり機械を覆う集塵ブースなどで、この撒き散らされる粉塵をいかに余さず、効率よく集塵するかに多くのページが割かれています。生産現場とアマチュア木工の工房では作業時間、ダストの発生量は大きく違うと思いますが、パイプ/ホース先端の処理の仕方も見逃せない大事な要素という事が感じられました。言い換えれば、木工機械の集塵ポートはそのままでいいのか?ということですが、そこまで触れる余力は残っていないので(笑)、参考資料を掲載します。
完璧な集塵はアマチュアレベルではまず不可能ですから、数ミクロンのダストの分離能力があるダスト・フィルター、マスク、換気扇(排気)、エアクリーナーなどを併用して、粉塵を吸い込まないようにする方がいいようです。
改めて、集塵って、大事業ですね・・・
2004 April
・やさしい局排設計教室/沼野雄志著 中央労働災害防止協会刊 3568円 ISBN4805901047
・昭和電機(株)のホームページ
・Cyclone Dust Collector Research
・ONEIDA AIR SYSTEM Inc.のホームページ
・WOODSUCKERのホームページ
・Penn State Industriesのホームページ
・(株)マキタのホームページ
・Delta Machinery
・JETのホームページ
・圧力単位換算