自動カンナの騒音 INDEX  (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7)FWWより (8) まとめ 消音技術 決着


自動カンナの騒音(1)

   
 上部のパネルを外すと中央にカッターヘッド、手前に赤いプラスチックのOutfeed Chip Deflectorがあり、削りカスが材に落ちて材とアウトフィードローラーに挟まらないようにしています。これとカッターヘッドの間隔は1/8〜1/4"にするようマニュアルには書かれていますが、おおよそ1/8インチになっていました。試しにこの部分を全部取り外してみると集塵機を動作させても騒音は全く変わらない事がわかりました。という事は
 集塵機の風でこのOutfeed Chip Deflectorと上部パネルの空間で共鳴し騒音が大きくなる
という事のようです。次にこの間隔を1/4"にしてみると少し騒音は減少しますが、もっと静かにならないものかと間隔を1/2"すると気にならないレベルまで減少しました。
 この設定では集塵機に十分な能力がないと先に書いたように材の上にいっぱいダストが落ちたままで排出されるという事になるようです。試しに切削してみるとダストは無いのでどうにかセーフのようでした。
 実用上は問題なさそうですがちょっとばかりシャクな感じも残るので、オーディオの世界で注目されているティーバックや和紙等を使った何とか式レゾネーターは試してみたいと思っています。

FEB. 2010


自動カンナの騒音(2)

 実用的には何とかなりますが、釈然としないので深入り(笑)。自動カンナのカッターヘッド周りを横断面から見ると下図のようになっています。

左側がダストフードでここに集塵ホースを接続しています。カッターヘッドの回転は定格60Hzでは4500回転ですが50Hzで動作させているので3900回転程度?(まだ回転計でチェックしていません)。

実際の機械の構造は

でシールが貼られている上パネルを外すと

のようになっています。

上面パネルに1/4円のInfeed Chip Deflectorが取り付けられ、赤いプラスチックがOutfeed Chip Deflectorです。これとカッターヘッドとの距離で騒音が大きく変わってきます。上右の取り外した状態では集塵機本体の騒音、吸い込みの風音が加わるだけで自動カンナ本体からの騒音はほとんど変化ありません。

この距離を約10mmにセット。六角レンチの先端が刃先です。この状態でレベルは低いものの既に中帯域の風騒音が発生しています。マイク代わりにオンソクの安物騒音計のAカーブで、マイクの感度は固定して測定しています。

自動カンナ単体では

集塵機を動かすと

中帯域の騒音が10dB以上増加しスペクトラムも複雑に。
次に間隔を5mmにしました。

この場合集塵機なしでも中帯域の騒音は間隔10mmより増加し、成分が高い周波数にシフトしているようです。

集塵機を動作させると

やはりなしの場合より10dB以上増加し、櫛のようなスペクトラムですさまじい音になっています。
安物の測定器ですので当てになりませんが、材料の出口側より1m離れたところでの騒音値(dB)は

間隔 自動カンナ単体 集塵機動作時
10m/m 72 85
5m/m 74 98

カッターヘッドとデフレクターの隙間の風騒音が原因では無いかと思われ、集塵機が動作すると風速が増加し騒音も増大する現象?。又集塵ホースに耳をつけても中帯域の騒音は聞こえず、主としてこのカッターヘッド室、そしてダストポート内のようです。60Hzで動かしたらもっとうるさいかも。

 この状態を"そういうものだ"と受け入れ、「イヤーマフ」をつけて作業するするのが普通です。しかしバンドソーの改造、電磁ブレーキなどいろいろ経験してみると、自動カンナ=うるさい(切削時は別として)、ユニバーサルモーターでという理由だけでうるさいの???。残念ながら以前使用した際にはノーケアでした。
 家電では真空掃除機のキーンと言う騒音をボディに迷路共鳴室を設ける事で減少させていますし、同じようにはつり機のすさまじい騒音も減少させています。社会問題となった高速交通のトンネルの衝撃騒音対策、車の排気音、室内のこもり音などいろいろな騒音、洗車機の風騒音対策、タッカー・ネイラーなど(病人や幼児にとっては重大なストレス)の低減など、仕事というだけで我慢せざるを得なかった騒音でも少しずつ対策が進んでいます。
 木工機械も登場してからかなり時間もたっているわけですから、ちょっとは進化があってもいいような・・・・

 出来るのかどうか分かりませんが、騒音レベルを10dB下げたいと思っています。ネットを調べまくって2つほど取っ掛かりがありましたが、流体力学はとんと分かりません。ただしカッターヘッド室内は余裕がなく有穴ボードのような吸音材は無理そうです。また中澤式レゾネーターは風速があるこのような場所には向きませんし、閉じられた空間内に詰め込まないと効果が期待できない?

MAR.5 2010


自動カンナの騒音(3)

騒音を減らす方法として

1.発生してしまった騒音を減らす
 遮音材、吸音材で発生源を囲い込む。ダクトなどの管路ではヘルムホルツレゾネーターやサイレンサーで消音する。自動カンナなどの開口部が大きい機械では難しい。

2.アクティブ消音
 騒音波形を位相反転させたものをスピーカーから出して打ち消す。このタイプのイャーマフが販売されており、また大型建設機械の野外実験も行われている。場所によって消音効果が変わるのが難点?

3.騒音が発生しにくい構造
 自動洗車機の例では突起物を取り付けることで消音している。理論的には難しそうだが、思い付きを試してみるには面白く、意外な方法があるかも・・・


自動カンナの騒音(4)

 あのBill Pentzさんに相談したところ、メールにビデオファイルが添付されて届きました。自作ブロアの風騒音を減少させる実験のビデオですが、簡単な方法で相当効果があるようです。自動カンナの騒音(3)で挙げた自動洗車機の騒音対策と似ているような気がするのですが、これなら変な圧力ロスの心配もなさそうです。残念ながら非公開。


自動カンナの騒音(5)


 光学式デジタルタコメーターでカッターヘッドの回転数を計測。約3950rpm。ボタンを押して測定しながら撮影できないので、メモリを読んでいます。

 今回より具体的に騒音を減少させる実験に入ります。

 これまでの測定から、
「自動カンナ単体で騒音が少なければ集塵機を動作させても相対的に騒音は低い」
 という結果が出ています。集塵機込みで測定するために、セッティングを変える度に上部パネルを取り外し、取り付けを繰り返すのは大変面倒なので、上部パネルは外したままで自動カンナ単体で比較実験を進めます。



 着目点はもともとある出口側のOutfeed Chip Deflectorで発生する風騒音を減少させることです。ぱっと思いついたのはもう一つチップデフレクターをつけたらどうか?という事でした。

 左画像でグリーンの部分が2ndチップディフレクターです。この画像で元々は切削されたダストはインフィードチップディフレクターに沿って反時計回りし、集塵ポートへ流れていきます。勢いあまったダストはOutfeed Chip Deflector (1stチップディフレクター)で邪魔されて集塵ポートへ運ばれます。
 2ndチップディフレクターは1stチップディフレクターより早めに同じ動作をします。こちらのほうがダストの流れがスムースではないか?

 騒音の点から言えば、エアフローを分散させ、1stチップディフレクターとカッターヘッド間を流れる風の量が減少し騒音を低減できる可能性があります。また1stチップディフレクターとカッターヘッドの間隔はそのままで、これが2枚に増えるのでダストの捕捉率向上が期待できます。
集塵ポート側から見て、2ndチップディフレクターの断面積だけ減りますが、全体の開口面積からすれば数十分の一で空気の流れを大きく阻害する障害物にはならないだろうと想像しました。


2ndチップディフレクターは5mm厚のスチロール板で幅は150mm、横から見て角度をつけて固定します。
 
実際に測定。まずは自動カンナ、集塵機が動作していない状態のノイズ。

測定は部屋の反響などの影響を避けるため出口から約30cmにマイクをセットしたので絶対値は前回の騒音レベルと比較は出来ません。1stチップディフレクター(カッターヘッドとの間隔は5mm))だけの場合は下のスベクトラム

 600Hz辺りにレベルの高い騒音があり、ワーんとかなり耳につき癇にさわります。2ndチップディフレクターを取り付けて調整すると1stチップディフレクターとの間隔、カッターヘッドとの間隔で騒音が小さくなるヌルポイントがあります。一番:減少するよう位置を調整すると

一番耳につく騒音周波数は約10dB減少し、トータルの騒音レベルでは85dB-->80dBと約5dB減少しました。
 400Hz付近および高い成分は逆に増加しています。今後はこうしたピーク(定在波)を抑えるような方法を取れば更にトータル騒音を低減できるのではないかと思います。

 *カッターヘッドは高速で回転していて極めて危険です。


自動カンナの騒音(6)

 Billさんとメールのやり取りをしていて「集塵の風、ダストフードが拡声器のような役割をし、もともとの騒音を増大させる」という事が確認できました。従って自動カンナ単体での騒音レベルを下げる事は、集塵動作時の時の騒音も相対的に低減するという考え方はあながち的外れではなかったようです。

 ネットを検索すると立命館大学の騒音研究 http://www.cfd.ritsumei.ac.jp/~ogami/souonn.html がありました。自動洗車機で洗い流したあと付着している水滴を吹き飛ばすジェットの吹き出しノズルの風騒音を低減させています。
 これは「大きな渦流を小さな渦流を干渉させ低減する」という考えのようです。この場合はノズルから自由空間へ拡散する場合で集塵と状況は違いますが、カルマン渦に関連した実験レポートを探してみると「干渉させる」という共通点があるように感じました。ゴルフボールのディンプルは? 電車のパンタグラフに開けられた穴は? 集塵では渦流は風圧のロスとなるので発生しないように設計するようですが、これらの場合は敢えて渦流の中に障害物を置き、大きなピーク(定在波)の勢いを弱めるようにしている・・・・

 測定したスペクトラムを眺めると、騒音のピーク周波数群が整数倍の関係があるらしいという事が分かります。室内音響でしたら、その周波数の波長と壁・床・天井などの距離から定在波が発生している原因や場所が特定出来るようですが、この空気騒音の場合は何とかの計算式があるらしいのですが? 頭がついていかないので、フィールドテスト(笑)

 で何をしたかというと、カッターヘッド近傍の空気の流れを乱す(不均一にする)ために自動洗車機で使われていた三角形の突起物を試してみました。騒音ピーク周波数帯が比較的高く強度は要求されない、実験なのでボール紙を三角形に切り折り曲げたものをガムテープで1stチップディフレクターの上面に貼り付けました。この上から2ndチップディフレクターを固定。断面が三角形のバーは傾斜して取り付ける為ですが、このままでは大きな障害物になるので後で小さく切って取り付けます。
 

比較のためにまず前回の測定結果、そして対策後の測定結果です。


全体的にピークが抑えられておとなしく(笑)なっています。200Hz付近はカッターヘッドやフィードローラー回転関係のメカニカルな騒音で変化なし、トータル騒音は84.5dB(今日最終セット中にアナログメーターの読み違いに気づきました。79.5dBに訂正)とほとんど下がっていませんが、これまで聞こえなかったフィードローラーの駆動チェーンの音などが分かるようになりました。測定距離が出口から約30cmで機械単体の固有騒音値に近くなっているのではないかと思います。
1stチップディフレクターの600Hz、2ndチップディフレクターの400Hzは少し残っていますが、あまりオブストラクツをつけると集塵に響いてくる恐れがあります。
 
 MAR. 11 2010


自動カンナの騒音(7)

 久しぶりにFine Woodworkingのメンバーズページを見ていたところ、サイクロン集塵機の騒音対策で、これをクローゼットに収納する記事があった。こちらはIn house workshopなので当初同じように小ブースを作りそこで囲い込むよう考えていたが、現状では自動カンナを除き、ホールをはさんだドア2枚のリビングで、テレビを見たりするのに支障ないほど低いのでむき出しのまま。
 囲い込む場合は圧力ロスが少ない排気経路を考えておかないと騒音は減るものの、集塵能力は低下する。

 同じ記事で、ダストビンがいっぱいになった事を検知するため「ダストビンの中に電球を入れておき、光が見えなくなったら一杯になった」と分かると紹介されており、なるほど、いろいろ方法はあるものだわい!とにんまり。
 ただし電球の発熱には注意、色とりどりのLEDを入れておくと楽しいかも(笑)


自動カンナの騒音(8) 確認

 これまでは自動カンナ単体でのテストで、最終的には集塵機を動作させての確認になります。1st チップディフレクターに取り付けるオブストラクツもボール紙では情けないので、作り直し。金属板はカッターのブレードに当たってしまった時を考えると使えず、手持ちのプラスチックケースから切り出して作りました。画像上に穴だらけになった残骸が。エアフローを不均一にするためなので大きさはさまざま、1st チップディフレクターには間隔もばらばらにして、塩ビの接着剤で固定。
  
この上から2ndチップディフレクターを固定。上部パネル、ダストフードを取り付けて測定。ブレード先端と1stチップディフレクター間隔は3ミリ。 5ミリの場合より騒音は更に増加する状態。
結果は 排出口から1mの距離でのトータル騒音は 98->91dBと低減され、聴感でもノイズレベルが下がっている事はよく分かります。細かく位置調整すればもっと追い込める可能性は残っており、まだカッターヘッド室内、ダストフード内のsound material処理はしていません。
 スペクトラムは

下は1stチップディフレクターのみで無対策時のスペクトラム。

 機械固有のカッターヘッドの直径、刃の数、回転数、カッターヘッド室の各サイズ、ダストフードの形状など、集塵の風量、突起物の形状、数・・・など全てがパラメーターとして利いてくるので具体的なサイズなどは書きません。全部を覆って囲い込む事が出来ない状態での騒音対策の難しさを感じた実験でしたが、騒音退治のプロセスとして参考まで。


まとめ

 今回の騒音対策については、「自動洗車機」の騒音対策の実例で紹介した立命館大学 理工学部 機械システム系・機械工学科 流体工学研究室の 大上芳文教授にご相談させていただく事が出来ました。貴重なお時間を割き、ご助言をいただけました事に深くお礼申し上げます。

 全く知識が無いところからのスタートでしたが、チップディフレクターで発生するカルマン渦が原因のようです。これの対策としては
イギリスの政府機関であるHealth and Safty Executive にカルマン渦が生じにくい構造として具体例が掲載されていました。
 

左はテーブルにスロットを設けていますが、現実的には改造は不可能ですし、自動カンナには構造的に当てはまりません(ジョインターには・・・)。また小さなチップを並べたカッターヘッドはそれだけでもう1台機械が買えそうな価格です。

「音の原因は流体中に発生する"渦"であると考えられ"2ndチップディフレクター"のため渦が分解された」
「重要な事は突起物の大き、配列ですが、これらの最適値を知るには計算機を使って地道に解析する事になります」

ということですので、大改造を必要としない現実的な対策として間違ってはいなかった、と考えられます。
更にチップディフレクターの先端の形状、先生のおっしゃる突起物などまだまだ実験/改善の余地はあると思います。

ヒアリング・ロスを防ぐために
 騒音の人体への影響と騒音性難聴の予防対策
 Managing Noise at Workspace

 特に後者では85dBの騒音に8時間さらされた場合に被曝する累積騒音エネルギーを、それより高い騒音レベルではどれだけの時間で受けるか算出している。例えば騒音レベル103dBではわずか7.5分。

 ライブハウス/コンサートホール/スタジアムなどのコンサートをマネージメントする仕事を長い期間やっていたが、ロックコンサートでは耳栓が欠かせなかった。またスタジアムや野外の開催前に近隣の町会長に挨拶に回ったり、開催中に騒音計を持って住宅地、病院などを走り回った事も・・・、雲が低く垂れ込めていると音は遠くまで届く。


具体例に見る消音/減音技術

三菱電機 クリーナー 家庭用掃除機の低騒音化。自作サイクロンに応用できるかも
moriのページ 騒音制御技術者の方のホームページで詳しく解説
戸田建設 建築機械騒音のアクティブ消音
立命館大学 自動洗車機の風騒音対策
法政大学 ヘルムホルツレゾネーターの実験
精密機械 工場における騒音対策
神奈川大学 ヘルムホルツレゾネーターの実験
早稲田大学 対話形式で易しく解説
岡山県工業技術センター 岡山県工業技術センターにおける音・振動解析事例
大成建設 パンチングメタルから発生する風騒音に関する研究
熊谷組 ルーバー式面格子の風騒音防止技術を開発


1台の木工機械から広がりすぎてとても列挙できない・・・・


決着!

 まとめの後に決着は変?。今日最終調整と組み上げ。1stチップディフレクターの裏面にも四面体の突起物を取り付け(これは集塵にはほとんど無関係)、2ndチップディフレクターのエッジを削って丸みをつけた。1stチップディフレクターとカッターブレード先端の間隔は3mm、距離は1mで集塵機の動作音、室内反響も含めたトータル騒音。これまで大きく口を開いているテーブル面と同じ高さ(床から約87cm)で測定しており当然騒音値は大きく出ていたが、実際の作業ではあまり無い事なので

テーブル面と同じ高さ 作業する耳の位置
対策前 98dB 90dB
対策後 89dB 82dB

となり、10dB削減はならなかったものの、低い騒音成分が耳立つ?ようになり、スペクトラムを見ると無体策時のすさまじい櫛グラフがピーク3つのすっきりした形になり、高調波が全面的に抑圧されているのが良く分かる。来週熱線式風速計を借りる事になっており、集塵の確認を行う。